PCもいい音で、編

 アルテックの8インチスピーカーと真空管アンプの組み合わせで、ようやく私のオーディオ行脚もひと息つきました。
 そりゃ、まともなCDプレーヤーも欲しいし、プリアンプも使ってみたい。高級ケーブルにも触れてみたいし、アンプももう少しまともな(例えば全段差動PPとか)のがもう一台欲しい。スピーカーもできればサブウーハーとスーパーツイーターで補強したい。欲をいえばきりがありませんが、でも現状で十分音楽を楽しめてます。

 いま問題があるのはメインのシステムより、むしろサブの方。
 うちのサブシステムというのはつまり、PCの事です。

 家にいる間はほとんどPCつけっばなし。テレビもDVDもPCで見ます。ネットラジオも聴きます。メインのシステムよりPCで音聴いてる時間のほうがはるかに長いです。だからこそ手は抜けない。うちの液晶にはスピーカーもついてますが、そんな子供だましでは到底満足できない。
 音質を求めて一時期、PCの音もメインできいてましたが、テレビ視聴ごときに大切な真空管に火を入れるのも気の毒というかもったいない。
 これはなんとかしたいです。

 ところで。
 PCは音が悪い、そう思い込んでいませんか? それは古い考え方です。
 PCは市販のオーディオ機器よりも良い音を聴かせてくれる可能性があります。
 たとえばここ(片岡教授のHTPC研究室)とか、ここ(西川和久の不定期コラム)とか、こういうサイトを熟読すればPCオーディオのもつポテンシャル、そしてそれを引き出すノウハウを知る事ができます。PCに音質を求めない人はともかく、PCサウンドをいい音で聴きたい人は、少しの工夫とお金で見違えるような音質を手に入れることができるのです。

 というわけで私も実践してみました。例によって予算はないのでできる範囲のことを。

1・PC本体の静音化


 一番肝心なのは、PC本体が騒音を出さない事です。スピーカーがいくらいい音で鳴っても、横で雑音をまき散らすのでは意味がありません。
 一番いいのは、音のしないPCを使うことです。ノートPCはその意味でよい選択でしょう。
 デスクトップの場合、Pen4/PenDのような発熱の大きなCPUは冷却のための騒音が大きくオーディオPC向きじゃありません。上述の片岡教授によればCPUの周波数が高いほど電気的ノイズが増えるのでその意味でも好ましくないでしょう。動作周波数あたりの性能が高いCoreDuo/Solo、PenM/CeleronM、Athlon64などが向いていると思います。オーディオ専用ならPen3/カッパーマインCeleronなど今となっては非力なCPUも有望です。静かなPCを作る方法は散々書いてきたので参考にして下さい。

 でも、自分のPCがやかましいからといってあきらめる必要はありません。
 PCを自分から離して置けばいいのです。ちょっと工夫するだけで簡単にできます。

 ・キーボード/マウスのコードを延長する。またはワイアレスにする。
 ・USBハブを手元に引っ張ってくる。
 ・外付けの光学ドライブを手元に置く。

 これで快適さを犠牲にしないで、ディスプレイケーブルの長さ分だけPCを遠ざけることができます。
 電源スイッチが手元にあればなお楽ちん。一部の自作PCなどではキーボードやマウスで電源投入できます。工作の心得がある人ならマザーボードからスイッチを引き延ばしてもよいでしょう(意外と簡単です)。そこまでやれば、ただの箱と化したPC本体は防音板で囲ってしまうなどさらなる静音化が可能です(排熱には気をつけてね)。
 

2・USBオーディオの使用


 PCは雑音を出すだけでなく、その内部は電気的ノイズの巣です。これが音質の向上をさまたげます。
 今のPCは基本的に最初から音が出るようになってますが、その内蔵音源は音質の点では最悪です。

 といいつつ私はPC内蔵サウンドを使ってます(笑)。AC'97音源ではなく専用のチップが載ってるので少しはマシですが、それでもPC側でボリュームを上げるとすぐ音が割れる代物です。
 PCIに増設のサウンドカードを差すだけで音はよくなります。以前使ってたので効果は知ってます。でも今は使ってません。PC電源に余裕がないからです(笑)。

 いずれにせよ、電磁気の嵐の中のPC内部で何をやっても根本的な解決にはなりません。USBでさっくりお手軽に解決するのが一番です。というわけでUSBオーディオを使います。
 実は以前から持ってたのですが使ってませんでした。音が悪いから(笑)。

「デジタルサウンドステーション」ひねりのないネーミング

 3,000円くらいで買った安物で、バスパワー方式つまり電源がPCから供給されるタイプです。音質は内蔵サウンドと大差ありません。USBといってもピンキリです。
 いい音でPCを楽しみたいならセルフパワー方式、つまり独立した電源を持ったUSBオーディオ機器を買うのがよいでしょう。PC内部のノイズだらけの電気をもらってもよい音は出ませんし、セルフパワー方式の機器のほうがおおむね作りが丁寧です。

 私は予算がないので手持ちのこの機器でなんとか音質向上をはかってみます。
 とりあえず、カップリングコンデンサを電解からタンタルに交換しました。

タンタルのほか、OCコンも換装済の図 入力カップリングらしき20uF (やけにデカいけど)をタンタルの5.6uFに交換。
出力カップリングの200uFは同じくタンタルの33uFに。
容量が足りないので低音は捨ててます。
その分、イキのいい音になる予感。
メインのオーディオではないので、気楽にやってます。
「原音再生? なにそれ」てなもんです。




 …たったそれだけで、内蔵サウンドを完全に凌駕しました。ねぼけまなこだった音に角が立つようになり、リズム楽器のアタック感が見違えるようになりました。いじった本人もびっくりの、楽しい音です。
(なんで市販の機器って、こんなつまらないとこで部品ケチるんだろーね)
 本当は電源もセルフパワー、それもできれば電池駆動にしたいところ。実は以前試みたのですが、音はよくなったけど電圧が不安定なせいか数十分で音が出なくなり実用的じゃないのであきらめました。代わりにコンデンサを増設することにします。デカップリングにOSコン差してやれば、くすんだ音も多少はクリアになるでしょう(写真は換装済)。

・ASIOドライバを導入


 これに関しては詳しくは語りません。ソフトの多くが未対応でまだ実用的といえないからです。特にメディアプレーヤーが未対応なので、まだ一般向けとはいえません。
 興味のある方は「ASIO」で検索してみてください。1円もかけずに大幅な音質向上ができます。

3・あとは、普通のオーディオと同じ


 ここまでやればあとは普通のオーディオと同じです。オーディオとして見た場合、PCはCDプレーヤーと同じだからです。普通のオーディオと同じやり方で音質の向上がのぞめます。たとえばPCに真空管アンプをつないでも、何の問題もありません。よいものを使えば、よい音が出ます。
 むろん、アンプやスピーカーがそれなりなら、それなりの音しか出ません。

 私の場合、アンプはちょっと手を抜いて電池駆動のICアンプですませています。

長いつきあいです電池ホルダを金属製のものに改良
 液晶の下でほのかに光ってる菓子箱がアンプです。単3×4本で動くICアンプ。もともとPC付属スピーカーに内蔵されてたものを改造しました。愛称は「悪魔の心臓」。名の由来はここ見てね。
 いろんなアンプを作りましたが、これが一番使い勝手がいいです。音も悪くありません。

 スピーカーはアルテックのCF204。高効率なのでこのアンプ(0.5W * 2)でもパワーは十分。クリアでいい音です。

 ネットラジオでジャズを聴いてて、今までかなり音に不満があったのですが、改造したUSB機器を使うことでかなり満足できるようになりました。アルテックらしいメリハリある音が今も心地よく鳴ってます。

 サブということで、ある意味割り切ってます。声がきちんと聴ければよいので低音は出ません。でもキチンと作ればPCでもメインのオーディオになりえると思います。少なくともその可能性が音からうかがえます。

 あ、PCで聴く時は、PC側のボリュームは下げて、アンプ側のボリュームをあげた方が、いい音しますよ。お試しあれ。
 その際、シャットダウンの前にアンプの電源切りましょう。でないと怖いことになりますよ。
 それと、PCでCD聴くなら、光学ドライブはぜひ静かなものを選びたいですね。

今日の一枚

『びんちょうタン サウンドトラック』

 ジャケットが強烈だ。こんなCDにまともな音楽が入ってるとは誰も思わないだろうし、これをレジに持っていくのは勇気のいることだ。
 ネット視聴で『びんちょうタン』というアニメを初めて見て、まず驚いたのが音楽の質の高さだった。三頭身キャラという絵柄からは絶対に想像できない雄大な音楽。あえて他のアニメと比較するなら自分の中では『メモル』の青木望、『エスカ』の菅野よう子以来の大当たりといえるが、むしろ『びんちょうタン』の音楽は実写の、それも極上の映画に使われるべき上品さを持っている(加えて背景描写もジブリクラスなのがこのアニメの凄いところだ)。
 誰が持っても損はしないCDである。美味しい水のように、美味しい空気のように心地よく耳に入ってくる音楽ばかりなので聴く人を選ばず、その上すり減る事がない。ひとりでも多くの人に聴いてもらいたいと思える数少ない一枚だ。巻末のOP&EDだけはアニメを知らない人には違和感があり余計だろうが(むろんファンにとってはかけがえのないボーナストラックである)。このCDに出会えただけでも『びんちょうタン』を好きになってよかったと思える。

 私はこのCDで出会うまで知らなかったのだが、このサントラには「オンド・マルトノ」というレトロな電子楽器が使われている。弦楽器のようなそれでいてふわふわした感じの不思議な音色で、気持ちを安らかにさせる魅力を持っている。興味がわき、この楽器の使われてる曲を聴いてみたのだが、その多くは「現代音楽」だった。
 20世紀前半、シェーンベルクとその弟子ベルク、ヴェーベルンらによる「12音技法」が現れ、その後「ポスト・ヴェーベルン」というべき音楽の潮流が第二次大戦後の世界を覆った。それはソビエトにおける社会主義の如き壮大な実験だった。理論により音楽を作り、難解であることをアイデンティティーとする、今思えば「ゆがんだ時代」だった(異論もあろうが)。
 オンド・マルトノの音楽の多くはその時代に作られたものだ。その多くは「肩の凝る」「難解な」音楽だ。この楽器は生まれてくる時代を間違えたのかもしれない。『びんちょうタン』のサントラの中での自由でのびやかなこの楽器の響きに触れるとそんな気持ちを強くする。そして同時にこの楽器の輝かしい未来もまた、このサントラから聴こえてくるように思える。

(捕捉・私はシェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンは好きですが、その後の時代の音楽はあまり好きではありません。だもんでそういう感情が混ざってこういう言い方になりました。そこんとこよろしく)

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