学研真空管アンプ編

 うちのステレオはデジタルアンプ(PAM8101)と真空管アンプ(TU-870)のマルチアンプ構成。どちらも安物ですが音質は満足です。動作原理の違うアンプ同士なのに音のつながりもいい。
 ただ、不満というほどじゃないけれど、消費電力がちょっと無駄っぽくて。

 デジタルアンプの方は文句なしです。単3エネループ3本(モノラル2台で計6本)で30時間以上鳴る省エネアンプですから。
 問題は真空管アンプ、いや真空管そのもの。電気代がどうとか発熱がどうとか、そんな事より
 高域担当のアンプのほうが電気食ってるというのがどうにも理不尽で

 そんなささやかな不満の隙をついて、学研からとんでもないキットが発売されました。去年から売ってたのに気づいてなかっただけですが。



 大人の科学 真空管アンプ

 一見普通の真空管アンプですが(世間一般には真空管そのものが謎デバイスでしょうが)、これは普通の真空管アンプではありません。
 電池2本で動くのです。

 ああ。電池と真空管が大好きな私にとって、これ以上の福音があるでしょうか。
 だから思わず購入ボタンをクリックしてしまった私を、どうか許して。


電池管、とはなんぞや!?

 このアンプに使われる真空管は「電池管」と呼ばれるものです。トランジスタ以前の携帯ラジオ(デカそう!)などに使われていたもので、真空管としては低電圧で消費電力も少ない。
 以前から興味はあったのですが、扱いも難しそうだし、そもそもどこでそんなマニアックな代物を売ってるというのか!?
 それが学研という有名メーカーから、ほぼ完成品のキットが実買1万円と真空管アンプとしては破格値で登場… と、ここまでお膳立てされては買わぬわけにはいきません。

 しょせんはおもちゃです。出力はたかだか0.1W。ですがトゥィーター鳴らすだけなら充分かもしれないし、作りが小さいぶん高域特性はいいかもしれない。あわよくば「打倒、TU-870」。特に夏場はたかが6BM8といえ赤熱した真空管なんか使いたくありませんし。
 といいつつも本音はまた真空管アンプが作りたかっただけ、真空管に触れていたいだけ。一度でも作った人ならこの気持ちわかるでしょ?


エレキットと比較して

 商品到着が待ちきれずネットで情報を収集し、改造案などめぐらせていました。このアンプ、やはり実用としては問題が多いようで。
 まず付属のスピーカーの出来がひどいらしい。そして内部の写真を見るかぎり基盤もパーツも安っぽく、徹底したコスト削減の精神に貫かれています。「抵抗1本、コンデンサひとつ無駄にはつけん!」という気合に満ち満ちていて、いっそすがすがしいほど。
 値段が値段なので一向にかまいませんが、唯一我慢できない部分があります。真空管、トランスと並ぶ音質の要、カップリングコンデンサです。

写真は購入後のもの。

気になるのは、緑で囲った2つのコンデンサ。
ここがカップリングコンデンサなのですが、
どうみてもセラミックコンデンサです。


後ろの黄色で囲ったやつは出力トランスと並列につながってます。
高域のノイズをカットしてるのでしょうか?


 カップリングは音声信号の入力経路。ここにセラコンを使うことは通常ありません。ギターアンプ(というかエフェクタ)に使われることはありますが、それは音を歪ませて「ギュォ〜ンギュォ〜ン」するためで、音楽を忠実再現するためではありません。
 これがたとえばエレキットのようなハンダ付け前提のキットなら、笑ってポイして自分の好みの部品と交換しておしまいなのですが。でも学研のこのキットは「ハンダ付け不要」の手軽さが売り。その手軽さにつられて買った人は間違いなくこのまま使うでしょう。そして「真空管の音なんてこの程度」で終わっちゃう。だからこそ要所には最低限のクオリティの部品をつけてほしかったです。
 どうやら音質には期待できそうにありません。しかしこればっかりは実際使ってみないとわかりません。


さあ、そんなこんな言ってるあいだに到着しましたよ〜

 外見の写真などすっ飛ばしていきなり内部構造に突入!


基盤です。中国クオリティが漂います。

真ん中の金属部分はDC-DCコンバーター。電池の1.5Vから数十Vを生成。
電池で真空管アンプを動かす魔法の源です。

ハンダ付けのクオリティも私と似たりよったり。
というか一カ所明らかにはみでてますが。
(念のため吸い取りました)

なんだかんだいっても真空管を見ると顔がほころんでしまいます。
手持ちの6BM8(一番右)と並べてみました。
いつもはかわいい6BM8がなんだか偉そうにふんぞりかえってます。
弟ができたお兄ちゃんみたいです。

出力トランスもかわいらしいこと。
手持ちのトランス、超3結の友、東栄トランス(たぶんT-850)と並べました。
ふんぞりかえってます。


 まずは何も手を加えず聴いてみます。
 …といいつつ手持ちの電池とスピーカーを使いたいので、電池ホルダと自分用のスピーカー端子だけ増設しました。
 まさかその程度で動かなくなるなんてことないでしょうし。

 さあ、スイッチオン!
 …鳴りません。LEDも点灯してません。まさか不良品!? 慌てふためき調べた結果…


 電池ホルダと電池が接触不良で電気が来てませんでした
 アホか、わし

 電池を交換して問題は解決。気を取り直して、さあスイッチオン!

 鳴りました! でも片方だけ。まさか、もっとも恐れてた真空管の初期不良か!?
 慌てふためき調べた結果…
 スピーカーケーブルが断線してました
 やる気あるんか、わし

 チャイナクオリティを疑う前に自分を疑うべきでした。
 やむなくスピーカーを実験用から本番ものに取り替えて、さあ、次こそ鳴らすぞホントだぞ!

このての非力なアンプとは相性抜群と思われるアルテックCF204。
こいつとペアが組めるなんて、あんた幸せ者だよ。


 鳴りました。どこも壊れちゃいません。
 学研さん、ありがとう! 中国のおばちゃん、ありがとう!


 前進、前進、前進進!


評価、二転三転

 会社に行くまでわずかな時間があったので、一枚だけ聴いてみました。

評価CD:「中嶋美智代ベスト Stay with me」

「いい!」
 直熱管なので余熱の必要もなく、いきなり心地よい音が私の鼓膜を直撃。
 コンデンサの質だのなんだのと思い描いていたたわごとが、音の前に消えていきます。うちのTU-870と同レベルの音じゃないか。

 会社に行ってからもその音が忘れられません。「う〜む」
 なんであんなに音がいいのか。悩むことではないけど、音がよいに越したことはないはずだけど。でも、う〜む。
 あんな安っぽいアンプに、いじり倒したTU-870と同レベルの音をいきなり出されては立場がありません。

 帰宅後、もう一度鳴らしてみました。そうしたら聴くに耐えない弱々しい音。会社行く前聴いたあの音はどこに? 空耳? 気のせい? プラシーボ!?
 予想より早く電池が切れてきたみたいです。単1×2本で動かすべきものを無理に単3一本で動かしてるから当たり前だけど。
 電池を替えてじっくり聴いてみたけれど、よく聴けばやはりTU-870とは比較にならない。最初に音が出たとき嬉しくてつい過大評価したみたいです。こういうことは冷静になってから評価したほうがいいですね。


で、改めてじっくり聴いてみた感じですが

・5極管の無帰還というイメージ通りの野放図な音です。
・セラコンの影響もやはりキンキンと感じられます。
・パワー不足はいかんともしがたく、高能率のCF204との組み合わせでも欲張ってボリュームをあげるとすぐに音をあげます。もう少しだけ、パワーがほしい!
・電池駆動ならではの静けさは予想以上。TU-870も十分静かですが明らかにこちらが上。同じく電池駆動のデジタルアンプよりもさらに上です。
 PCからサウンドカード経由で鳴らすと、TU-870で拾っていたノイズが聞こえません。
 
 といったところです。
 以前から疑問だったのですが、プレーヤーとアンプが共にAC駆動の時って、コンセント越しに互いのノイズを拾ったりとかしないのでしょうか? いずれにせよ電池駆動でそんな悩みは消えます。パワーこそ絶望的に足りないものの、私はこのアンプに可能性を感じました。


改造案

 このアンプを改造するにあたって、おおまかな構想を練りました。

・フェーズ1
 オリジナルの基盤を用いた小改造。
 概ね、パーツの変更にとどめる。
 極力、お金はかけない。

・フェーズ2
 基盤を捨ててモノラルアンプ化する。
 真空管とトランス以外、全て変更。
 A電源は単3×1本。
 B電源は単3×1本(A電源と共用)を用い、DC-DCコンバータを自作。
 C電源は3Vリチウム電池を用いる。


 本当にフェーズ2まで突っ走るのか、まだわかりません。DC-DCコンバータ作ったこともないし。今はネットで作例を眺めてる状況です。


改造その1(取説にもとづいた改造)

 取説に書かれている小改造を実践します。

・省エネモードへの改造
 出力管2P3のフィラメントへの電力供給は1ピンと7ピンの2箇所。
 基盤上の指定箇所のハンダを吸い取り、片側の電源供給をカットします。
 出力は少し落ちるが電池が長持ちするそうです。

・5極式から3極式への改造(3結化)
 同じく出力管2P3のプレートとスクリーングリッドをつなぎ、3結化します。
 基盤上の指定箇所のハンダを吸い取ります。代わりに別に指定された2カ所をリード線でつなぎます。私はリード線の代わりに75Ωの抵抗でつなぎました(発振防止用)。


 3結化することで各部の電圧/電流値が変わりますが、元々の動作に余裕があるので大丈夫です。
 念のためうちの安物テスターで計ってみました。端子が接触不良でいつも「買い換えなきゃ」と思ってる代物なので、数値は参考までに。

オリジナル 3結化
1B2 プレート(4PIN) 13V 17V
フィラメント(7PIN) 1.1V
2P3 フィラメント(1PIN) 1.1V
プレート(2PIN) 25V 40V
スクリーン(3PIN) 25V 40V
R3 - R4間(2P3グリッド電圧とほぼ同じ?) -2.2V(計測ミス?) -3.2V

・フィラメント部は電池の電圧そのものなので、本来の電圧が相当落ちてるということです。さすがに負荷が高いか。
・2P3プレート部ですが、たまたま真空管差さずに計ったら軽く250Vを超えてました。電源は安定化されてないようです。
 この数値を見る限りでは、3結化して使ったほうが本来の真空管の動作電圧に近いと思われます。

 この小改造で省エネになり電池の持ちがよくなる代わりに、出力はさらに下がることになります。
 が、実際には歪みが減ったせいか、元々が非力すぎるせいか、出力が落ちたという実感はありません。
 改造前の電池のもちは調べてません。改造後は約2時間程度です(GP製ニッケル水素電池2000mAの使い古しを使用)。自分にとっては許容範囲内です。電池を一本ではなく並列にすればさらに長持ちしますが、電池の個体差による負荷の偏りや過放電を嫌って、敢えてやってません。


改造その2(カップリングコンデンサ交換など)

 計画どおり、カップリングコンデンサを交換します。

・カップリングコンデンサの交換
 左右2カ所、計4カ所のカップリングコンデンサを撤去し、同程度の容量のフィルムコンデンサと交換します。
 耐圧は50V必要です。有極性のコンデンサ(電解、タンタル、OSコン等)は使ってはいけません。

・ボリュームの撤去
 音量調節はPCで行うので、ボリュームはバイパスします。コンデンサ交換の際、入力端子と電圧増幅管のピンを直接コンデンサでつなぎました。
 ボリュームはもはやスイッチの役目しかありません。

・出力トランス一次側と並列についているセラミックコンデンサを撤去。
 コンデンサ交換の際、ついでに撤去しました。このコンデンサは高域のノイズをカットするためについていると思いますが、試しにとってみました。


 この改造で随分聴ける音になりました。おもちゃというにはキチンとした音です。
 音量が小さいのと低音が出ないことを除けば、音質そのものは悪くありません。というか実に心地よい。CF204との相性はいよいよ素晴らしく、気がつくと何時間も聞き入ってます。予想以上にいいアンプです。


改造その2.5(LED交換)

・コンデンサ交換の際、LEDが明るすぎて電池がもったいなく思えたので手持ちの小さいのに換えました。ここは出力管のバイアス値を決めるクリティカルな部分なのですが、敢えて試してみました。
 バイアスはアナログテスターのおおざっぱな値で-3.2Vから-2.95Vになりました。聴感上は変化ないようです。最適値ではないと思いますが、ここは将来3Vのリチウム電池を使ってみたいとも思っているのでその先行実験としては有意義でした。
 このアンプ、作りは安っぽいですが回路そのものは相当吟味して作られているようで、安易な部品交換はしないほうがいいかもしれません。でもこれはあくまで実験キットですから。いずれ、にわか勉強をしたうえで他の部分の改造にもチャレンジしてみたいと思います。


交換前(右)と交換後(左)のコンデンサとLED。
とりたてて高級な部品は使ってません。

改造後の基盤のようす



改造その3(出力トランス交換)

 予定にはなかったのですが出力トランスを交換してみたくなりました。予想以上に聴けるアンプなので、低音も欲張ってみたくなったのです。
 たまたまトランス持ってるし。

・出力トランスをオリジナルのものから東栄トランス(T−850)に交換
 トランスがデカいほうが低音が出るはずです。
 ところが実際に片方だけ交換して比較してみたら、T−850の方が上も下も出てません。

フリーソフトの「WaveGene」と「WaveSpectra」で
周波数測定してみました。
測定といってもスピーカーから出てくるサイン波を
マイクで拾っただけですが、
でも比較はできます。

青線がオリジナルトランス
赤線がT-850



オリジナルの一次側インピーダンスは多分10kΩ。
T-850は7kΩでつなぎました。

3結化したこのアンプでは
T-850のほうが正解に近いはずですが…

 測定誤差範囲内といってもいい微妙な差ですが、オリジナルトランスの方が優秀にみえます。
 聴感上も低音の具合には大差なく、それ以前にオリジナルの方が「楽しい」音に思えます。
 学研アンプのこのトランスは見るからに安物でちっちゃいですが、意外にあなどれません。換装する意味がないのでオリジナルのまま使うことにします。


とりあえずのまとめ

 トゥィーターを鳴らすつもりでいたこの学研アンプですが、結局はフルレンジで聴いてます。
 現在PCで音楽を聴いていますが、今までどのアンプを使ってもPCのノイズがスピーカーから出てました。それがこのアンプだけは全くクリアな音。このノイズレスなアンプに釣り合うウーハー側のアンプがなく、結果やむなくこのアンプとフルレンジスピーカーで聴いてる次第です。

 久しぶりにフルレンジの音に酔いしれてます。明らかに音のクオリティは後退してるのに、不思議と聞き飽きない音です。休日一日で単3電池を都合9本も交換してしまった(笑)。ワルター・クリーンのモーツァルトなど、録音のしょぼさがアンプのしょぼさで相殺されて実に心地よいのなんの。TU-870よりも心地よく聴けるのはなぜだろうと考えてみましたが「高域のアタック感」がピアノの音にリアリティを与えているのかもしれません。これが傍熱管と直熱管の違いなのでしょうか?
 しかしこのハイ上がりのアンプで一番心地よく聞けるのは、実は初音ミクだったりします(笑)。真空管で聞くバーチャアイドルは最高っすね。



 というわけで、意外と音はまともだった学研アンプですが、もしも音質を求めて真空管キットを買うのなら、迷わずエレキットのTU-870を勧めます。値段は倍近いしハンダ付けが必要ですが、あれはよいものだ!
  学研のこのキットもなかなか楽しい音ですが、多少とも音をよくしようと思ったら結局ハンダ付けが必要になるし、このアンプで音楽を楽しむには能率のいいスピーカーが必須でしょう。このキットに音質を求めると、結局遠回りになります。
 それと、音にはなんにも関係ありませんが、学研アンプは電池管なので光らないんです。最初に真空管アンプを買う時は、やっぱりあのぼんやり鈍い輝きが欲しくなりません?
 個人的にはこの電池管で十分です。光らないのは省エネの証。でもこんなものをわざわざ喜んで使う自分は相当変わり者だと思います。


最後に…

 あれ? なんかひとつ忘れてたような…

封も切ってもらえないスピーカーたち

 おや、あんたたち、まだいたの?


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