−地獄からの生還!?−
よみがえるか、幻のCPU!
そのときのCPUアクセラレータは今も手元にある。失敗を忘れないためのモニュメント!? いやそうではない。
「バラせば中のCPUは生きてるかもしれないぞ」
まったく救い難い楽天家とは私のことだ。しかしバラすのは容易ではない。簡単にできるくらいならそもそもアクセラレータごと使ったりはしない。
けど、死んだパーツなら。力づくでバラして、それで壊れても悔いはない。うまくいけばめっけものだ。
本当はこういう時のための専門の工具がある。CPUリムーバとかいうらしい。私はそんな工具は持ってないので、カッターの刃をむきだしにして、アクセラレータとCPUの間に両脇から突き刺し、徐々にその隙間を広げていった。CPUの足を傷つけ、あるいは切断してしまう(切れたら最後、二度と使い物にならない)危険な行為だが、なに、十中八九死んでしまっているCPUなのだから。今回はあくまでも練習ということで(次はあるのだろうか?)
そんなお気楽な気持ちで始めるとあっけないほど簡単に外れてしまった。最初からこうしていればそもそも電圧を間違えることもなかったのにと思うとちょっと残念ではある。
K6−3/333。おそらく単体では市場に流れなかったであろう幻のCPU。企業の委託で受注生産され、さらにそのあまりをメルコが買いあげてアクセラレータに仕立てたと推察される。通常のK6−3と比べクロックでは見劣りするものの256KBのセカンドキャッシュは健在なので「そこそこ」のグレードアップを狙うユーザーには魅力的な選択肢だ。これが実買10000円で98にも差せたのだから一部のマニアには垂涎ものだったと思う。今は昔の話だが。
見た目は壊れてないようだが、そんなのは何の気休めにもならない。動かしてみればすぐにわかることだ。さっそくK6−3対応のマザーボード(EP−MVP4F)に差してみた。アクセラレータの設定と同じ66MHz×5でセッティング。久しぶりにドキドキする。なにせ動くか動かないか、今度ばかりは全く予想がつかないのだ。さあ、祈る気持ちで電源オン!
当時の模様を「再現」
…動いた、 動いたぞ、 動いたぁ〜っ!
まるで気分は『Uボート』の機関長だ。思わず「イッツアロングロングウェイ、トゥティペラリィ〜」と口ずさみたくなった私の気持ち、わかってもらえるかなあ!? これだから自作はやめられない!
「ははははは! 誰だ、動かないなんていった奴は!」
いまだに信じられない。あの運命の瞬間、メルコのアクセラレータは過大な電圧を一身に背負い自らの身を犠牲にしてCPU本体を守ったのだ。子をかばう母のように。ありがとうメルコ、ありがとうかあさん!
「かあさん…」
「メルコ…」
「かあさん!」
「メルコ!」
「かあさ〜〜ん!!」
「メルコ〜〜!!」
♪はるかぁそうげんを〜ひとつかみのくもが〜
…いや、感慨にひたるのはまだ早い。我々にはまだしなければならないことがある。
そう、言うまでもないだろう。オーバークロックだ。奇跡の生還を果たして戻ってきた我が子に笑顔を見せることなく、私は心を鬼にして再び死地に送らねばならない。
だって私は自作派なのだから。
まず手始めに66MH.zという手ぬるいFSBに別れを告げ、一気に100MHzまで上げる。
これに音をあげるようでは誇り高きK6−3の名を名乗ることは許されない。
100*3.5=350MHz … 安定動作
(SUPERπ104万桁完走をもって安定動作とする)
まずはK6−3としての義務は果たした。まだまだいけそうだ。FSBを上げてみる。
105*3.5=367.5MHz … 安定動作
AMDのCPUはオーバークロックに弱いというのが私の定説だが、こいつはなんだか余裕で動いている。久しぶりにドキドキを覚えながら、私はさらにFSBをあげた。
110*3.5=385MHz … 安定動作
この時点で私のK6−3に対する先入観は変更を余儀なくされた。
〜K6−3はどこから来たのか
K6−3とは何か
K6−3はどこへ行くのか〜
K6−3はマレーシアから来た。それは間違いない。刻印にそう刻まれてある。
私にわかるのはそれだけだ。このCPUは、セレロン並みの異常なクロックアップ耐性は何なのだ?
そもそも333MHzという定格クロックが謎なのだ。本来K6−3には400MHzと450MHzの2種類しかない。333MHzという半端な製品は定格でのテストをパスできなかったなかば不良品を救済するためのものだと、そう思っていた。しかし単純にそう思えない点もある。初期のK6−3の電圧が2.4Vに対してこのCPUは2.2V。後期のK6−3と同じタイプなのだ。ひょっとしたらこいつは大量の発注に間に合わせるため、やむなく400MHz動作する個体を表記だけ変えて出荷したものかもしれない。
そんな想像を胸に抱きつつ、更に挑戦は続く。これ以上FSBをあげると他のパーツに悪影響があるのでFSBを落とし倍率を上げる。いよいよ大台だ。
100MHz*4=400MHz … 安定動作
〜おういK6−3よ
どこまでゆくんだ
ずつとギガヘルツの世界までゆくんか〜
あの〜、まだ喝入れもなんにもしてないんですけど。
それとも一度12Vかけられて地獄(天国?)をかいま見たことで、怖いものなしの、いわばイッちゃった状態になってしまったのだろうか。ともかく凄い石に出会ってしまった。好奇心と、もはやこわいのがないまぜになって、さらに上をめざす。
105MHz*4=420MHz … 起動のみ。Windowsの旗で止まる。
ようやく限界が見え、私はむしろほっとした。その後なぜか400MHz動作でも不安定になる。原因は不明だが、とりあえずのテストということでCPUクーラーをちゃんと取り付けず上にのっけただけなので、多分そのせいだと思う。とにかく久しぶりに血沸き肉踊るクロックアップだった。
むろん、電圧を上げたりクーラーの性能をあげればまだ行くと思う。が、あいにくこのマザーボード(EP−MVP4F)のジャンパは2.2Vの次がいきなり2.4Vしかない。2.4Vどころか12Vにも耐えた石ではあるが、せっかく生き残ったCPUをつまらないことで失いたくない。
その後、別の2枚のマザーボードでも試してみた。
・AOpen MX59Pro2
ソケット7の最後を飾る名マザーボードだと個人的には思っている。
0.1V毎に細かく電圧を変更できるので結構期待したのだが、相性が悪かったのか、結局400MHzまで到達できなかった。
・ASUS SP98AGP−X
発売当初からK6−2対応にも関わらず100MHz動作が期待できないという、ASUSらしからぬふがいない板。
まず驚いたことにBIOSを更新してあるとはいえ、ちゃんとK6−3を認識する。
75MHz*5=375MHzで電圧を2.1Vに落とした状態で安定動作。
電圧を2.3Vにあげて83.3MHz*5=416.5MHzで「いちおう」安定動作。
「いちおう」と条件をつけたのは、83.3MHzというハンパなFSBではそもそもパソコンは安定動作しないからだ。PCIのクロックが規格を上回るため、HDDやCD−ROMドライブがオーバークロック状態となり壊れる危険性が高い。したがってCPUの限界の問題ではない。
(このマザーのBIOSにはPCIのオーバークロックを回避するための設定もあるのだが、それを有効にしても実際には反映されてない模様)
というわけで軽々と400MHz越えの性能を持つ事が確かめられたK6−3/333だが、時の流れは非情だ。いくらクロックアップ耐性が高くともこの程度の石はもはやネット端末程度にしか使えない。けれどこれだけはいえる。「いい夢を見せてもらった」と。
今この石はホビー専用のサブマシンに組み込まれ75MHz*5=375MHz動作で優雅に暮らしている。私はこの石に出会えたことを誇りに思う。この石は私に「夢」と、「希望」と、そしてなによりも無償の「愛」の意味を教えてくれたのだから。
「かあさん、僕、もう二度と母さんと離れないよ」
「ええ、メルコ。私たちずっと一緒よ」
「かあさん!」
「メルコ!」
♪か〜あさん おはよう ぼんじょるのみあま〜どれ〜
(完)