〜アドバンスド・ワールド・ペンティアム少女ドラマ〜

  『アキバ大パニック!』

 僕のパソコンは、まあ自慢じゃないがちょっとしたものだ。なにがどうちょっとしたものなのか、自慢じゃないけど紹介しよう。
 CPUはペンティアム166。ちなみにCPUクーラーはサンヨーだ。メモリーは48Mに増設。HDDは友達のお古をもらって1.7ギガ+810メガ。ジョイスティックはマイクロソフト製で、マウスはNERVのロゴのついた例のやつ。マウスパッドとお揃いだ。プリンターは従来より12倍きれいな新型で、ディスプレイは当然ナナオ… と言いたいが今のところはオールインワンの付属もの。一応17インチのダイヤモンドトロンだけど(あ、機種がばれちゃったね)。ばれたついでにスピーカーもダイヤトーンだ!
 標準装備されているサウンドブラスターボード(いちおう純正!)に加え、ビデオキャプチャーボードを増設。さらにこれまた増設したSCSIボードにはスキャナーとZIPドライブが接続され、さらにシリアルポートにはタブレットが、サウンドブラスター(くどいが純正)からはMIDIコードが伸びてSC−88(廉価版だけど)と繋がっている。マルチメディアもばっちりだ。モデムももちろんついている。キーボードは、ワープロソフトと一緒に買った○指シフトキーボードに付け替えた。なぜかこれを付けると訳もなく肩身の狭い思いをするという不思議なアイテムだ。そしてとどめはずっしりと置かれた無停電電源装置だ。

 なに? 別に自慢するほどのもんじゃないって? だから「自慢じゃないけど」って言ってるじゃないか。でもこれだってなけなしのお金をはたいて買ってきた時は当時最高の性能を誇っていた。僕は毎日のように小林(悪友)に自慢したものだ。それが三ヶ月、たった三ヶ月後にあいつが買ったパソコンの性能ときたら…
 とはいえ、今の僕のパソコンには十分満足している。そりゃ、デジカメがあった方がいいし、フライトシミュレーション用のフットペダルだってほしい。でも長い間のカップ麺生活の末ようやく手に入れた自分のパソコンだ。可愛くないはずがない。あんまり可愛いから、自分のパソコンに名前をつけている。
 『ラナちゃん』。それが僕の愛機の名前だ。これを買うずっと前から考えていた、とっておきの名前だ。とてもいい名前だと思う。だからうちのパソコンは本当は「パソコン」でも「マシン」でもない、僕だけの『ラナちゃん』なのだ。

 僕は北原リョウ。東京で一人暮らしをしている、パソコン大好きの専門学校生だ。

 その日の朝も僕は布団の中でまどろんでいた。目覚ましが鳴る前に目が覚めるのは、このところずっとだ。冬の間ずっと、朝方になるとせんべい布団の足元から部屋の冷気がスースーと伝わってきて、すっかり早起きの癖がついてしまったのだ。
 僕は足をちぢこめて、ぼ〜っと目覚ましの鳴るのを待っていた。首をのばして時計を見れば、もう8時前。そろそろ僕のラナちゃんが優しく僕を起こしてくれる頃だ。
「旦那、起きて下さい。朝ですよ」
 そらきた。24時間電源入れっぱなしのラナちゃんが、いつものようにモーニングメッセージを伝えてくれる。
「もう8時ですよ。旦那」
 いつ聞いてもいい声だなあ。思えばこうしてラナちゃんに起こしてもらうように設定ができるまでには、数々の試行と挫折、苦闘の日々があった。僕の頭の中は朝っぱらから走馬灯がフル回転だ。
「旦那あ。起きてくれないと、私、困ります」
 いつもながらけなげなラナちゃんだ。それにしても心なしか、今朝はいつもより声が近くに聞こえるなあ。多分夕べ、スピーカーの音量を大きめにしたまま寝てしまったんだろう。ボリューム下げないとまた先輩がどなりこんで来るぞ。ラナちゃんもああ言ってるし、もうそろそろ起きようか。
 そう思って僕は布団からはいだし… かけて止まってしまった。凍りついたように動けなくなってしまった。だって枕元に、見知らぬ女の子が座っていたんだから。
「お早うございます、旦那」
 女の子はにっこり笑った。
 僕は、ススーッ、と、出てきた時とまったく同じように、ただし10倍速(平均)で布団の中に戻った。頭の中は大パニックだった。なにがなんだかわからなかった。
 女の子は困ったように首をかしげた。
「…旦那、私が誰だか、わかんないんですか?」
「えっ!?」
 どぎまぎしながら、僕は布団から首だけ出した恰好のまま、女の子をよくよく観察してみた。
 女の子はちょこんと正座して僕の事のぞきこむようにしてる。黒くて長い髪が朝日で茶色に透けて見える。デニムのワンピースに薄手の白っぽいカーディガンが彼女によく似合っていた。
(かわいい…)
 モロ、タイプだ。この子、高校生くらいだろうか。でも顔が幼く見えるから中学生に見えなくもない。いやいや、そういう問題じゃない。この子が誰なのかが問題なんだ。
「あの… わかんないですか?」
 女の子は段々心配そうな表情になってきた。
 やばい、早いとこ思い出すんだ。ああ、でも思い出せない。僕にはまったく見覚えがなかった。だってこんな可愛い子にもし会ってたら、忘れるわけないじゃないか。
 その時突然、とんでもない、悪夢のような想像が僕の頭の中をよぎった。

 ――その夜、男と女は酒を飲んですっかり酔ってしまった。
 「私、なんだか酔っちゃったみたい」
 「僕の家、近いんだ。休んでいかない?」
  そうして男と女は一緒に布団の中。いつしかあ〜でもなくこ〜でもない事を今夜は寝かさないよって――

 ひえ〜っ!! 僕はこんないたいけな女の子になんて事をしてしまったんだ! 野獣だ! けだものだ! 犯罪だ!
 いやいやそんなはずはない落ちつくんだ北原。いくらなんでもそんなうれし恥ずかしい初体験をして覚えていない訳がない。だいたい昨日は酒なんか飲んでなかった。そうだ。僕は夕べ、ここでラナちゃんと大○略を…

 僕は息をのんだ。
 この子、さっきから僕の事、「旦那」って呼んでいる。
 僕の事、そんなふうに呼ぶのはただ一人。ラナちゃんだけだ。そういえばこの子の声はラナちゃんそっくり、いや、ラナちゃんそのものだ。
 僕はまじまじと女の子をみつめた。女の子は今にも泣きそうな顔で僕を見ている。こんな可愛い子が、まさか、そんな…
「あ、あの、君、ひょっとして…」
 言いかけて、僕の視線は女の子のおでこの部分に釘付けになった。彼女の額のまんなかに、黒くて四角いものがついていた。それはシュルシュルとかすかに音をたてていた。何で今まで気づかなかったんだろう。気が動転していたからだろうか、それとも逆光に遮られていたからだろうか。
 それは間違いなくCPUクーラーだった。
 赤と黒のコードがそこから伸びて前髪の中に隠れていた。そして小さく刻まれた、まぎれもない「SANYO DENKI」のロゴ。
「ああ、これですか」
 女の子は自分のおでこを指さした。
「これ、旦那が秋葉原で買ってきてくれたんです」
 女の子は嬉しそうにしゃべり出す。
「一人で留守番してくれてたから、おみやげだよ、って、旦那が私に…」
 女の子の声はだんだん小さくなっていった。
「…忘れちゃいました?」
「ううん…」
 僕は首を振った。
「…覚えてるよ」
 僕の声は驚きに震えていた。自分の頭の中で、何かがはじけたような気分だった。
「…それ、気に入ってくれたかな」
「ええ、もちろん。だって旦那のプレゼントだもの」
 女の子は、いや、ラナちゃんはにっこりと笑った。
「…ラナちゃん」
「はい…」
「…ラナちゃんなんだね」
 ラナちゃんはコクリとうなずいた。
「旦那あ!」
 ラナちゃんはギュッ、と僕を抱きしめた。正確には布団から出ていた僕の頭を。
「よかった… 分かってもらえたんですね。よかったあ…」
 僕はラナちゃんに膝枕してもらうような恰好になった。僕は驚きがさめやらず、ぼ〜っと、されるままになっていた。
「あんなに可愛がってくれたのに、旦那、私の事分かってくれないのかなって… すごく、すごく心配しちゃいました…」
「…本当にラナちゃんなんだね」
「はい、旦那…」
 夢を見ているようだった。ラナちゃんが人間に、しかもこんな可愛い女の子になってしまうなんて、これはひょっとして本当に夢なんだろうか。でもこの膝枕の気持ち良さは、間違いなく本物だあ…
「あ〜っ!!」
 突然、僕はある事に気づいた。
「という事は…」
「どうしたんですか旦那」
 僕は飛び起きて、四畳半の部屋を占領している大きな机の上を見た。
「ああ、やっぱり〜っ!」
 僕の机の上にあるはずの僕の愛機『ラナちゃん』は影も形もなかった。周辺機器ものこらずだ。机の上のホコリの跡だけがそこにあった物たちの面影をとどめていた。
「ああ〜っ、僕の『ラナちゃん』が〜!」
「だから私はここですってば」
「そうなんだ。そうなんだけど…」
 今までずっと宝物のように大事に扱ってきたあの筐体やディスプレイやスピーカー。それらは僕にとってはもはや単なるパソコン以上の『オブジェ』であり、『祭壇』であった。得たものは大きく、そして失ったものもあまりに大きかった。それに…
「いったいラナちゃんがこんなになっちゃったら、どうやってゲームやるの?」
「大丈夫。ディスプレイもジョイスティックも、ちゃあんとここに」
 ラナちゃんは、傍らにあった大きめのショルダーバッグをポンポンと叩いた。
「これを接続するだけでいつでもゲームできますよ。もちろん私との対戦もOK」
「で、でもワープロなんかどうするの?」
「大丈夫。旦那がしゃべってくれれば、私が口述筆記しちゃいます。もちろん720dpiで。書体も書式もお望みどおり」
「でも、でも表計算なんかどうするの」
「大丈夫ですって。だいたい旦那、そんなのやった事ないじゃないですか」
 ラナちゃんは胸をはる。
「旦那。こう見えても私、いちおうペンティアム少女ですから。そこらへんのパソコンに出来る事はひととおりこなせます。ご心配なく」
「でも…」
「完全マルチタスクでおまかせオーケー」
「でも、でも…」
「プラグ&プレイで簡単接続」
「でも、でも〜」
「“長いファイル名”にももちろん対応」
「でもでもでもでもぉ〜」
 もう戻らないあの四角く無骨な筐体… スワップの時、ハングった時、いつも僕をはげましてくれたあのHDDアクセスランプ… 増設のたびに僕を絶望的な気分にしてくれたあのゴチャゴチャの配線… ああ、今となってはあの憎たらしい電磁波までが懐かしく僕の目に焼きついている…
 混乱状態の僕を見て、ラナちゃんは幼い子をもてあます母親のような困った顔をしていたが、
「旦那、じゃ、こうしましょう」
「え、どうするの」
「まず、目をつぶっててください」
「こう?」
「で、両手を差し出して」
「こう?」
「はい」
 何か、熱いものがてのひらにおしつけられた。
「もういいですよ」
 僕は目を開けた。いつの間に用意したのか、僕の手にしっかりと、あったかい湯飲みが握られていた。
「どうぞ、粗茶ですが」
「あ、どうも」
 僕はとりあえず、出されたお茶を飲んだ。緑茶の苦みが伝わってきた。そのままいっきに飲み干した。
「どうです、落ちつきました?」
「…少し」
「じゃ、もう一杯」
 これまたいつのまにか急須のお茶を、ラナちゃんはとぷとぷと注ぎ始めた。ラナちゃんの笑顔に勧められて、僕はもう一杯いただいた。
 おいしい。水がとってもやわらかく感じる。温度も絶妙だった。さっきの一杯目とは温度も苦みも微妙に変えてある。ラナちゃんの心づかいが伝わってくるようだった。
「私ね、夢だったんです」
「夢?」
「ええ。こうやって、旦那にお茶を差し上げるのが」
 ラナちゃんはコクリとうなずいた。
「旦那が私を使ってくれたり、漫画を読んでいたり、ビデオを見てたり… そういうのをながめてて、ああ、こんな時、私が旦那にお茶を入れてあげられたらなあ、って」
 そうしてラナちゃんは僕をみつめた。
「ずっと、そんなふうに思ってました」
「ありがとう」
 僕は湯飲みを置いた。
「とってもおいしかったよ」
 お世辞ではない正直な気持ちが自然に口をついて出た。
「本当?」
「うん」
「だーんな」
「ん、なに?」
「ふふ… 何でもない」
 ラナちゃんはさっき出会った時と同じように、ちょこんと正座して僕のこと笑顔でみつめている。その笑顔を見ていると、僕の失った筐体やらグチャグチャのコードなんかどうでも良くなってきた。僕はそんなものの代わりに、かけがえのないものを手に入れたんだ。未だに信じられない気持ちだけれど…

「ところでね、ラナちゃん」
 僕はやっぱり気になっていた。
「なんでラナちゃんはペンティアム少女になっちゃったの?」
「え、なんでって言われても困りますけど…」
 ラナちゃんは小首をかしげた。本当になんにも知らないようにも、とぼけてるようにもとれるそんなしぐさだった。
「それがどうかしました?」
「だってね。普通、やっぱり、ちょっと気になるよ。一体どういう理屈で…」
「理屈ですか」
 ラナちゃんは、きょとんとして尋ねた。
「旦那。旦那は、テレビがどうやって映るか、知ってます?」
「いいや」
「じゃ、エアコンがどうして冷えるか、知ってます?」
「いいや」
「ジャンボ機がなんで空を飛べるか、知ってます?」
「いいや」
「まだなんか、気になる事あります?」
「いいや」
 すごいやラナちゃん。なんて明晰な頭脳の持ち主なんだ。さすがペンティアム少女。
僕の疑問は一挙に氷解してしまった。
「ところで旦那」
「なあに、ラナちゃん」
「さっき、8時に目覚ましかけてましたけど、何か用事あったんじゃないんですか?」
「あ〜〜〜っ!」
 僕は慌てて時計を見ようとした。
「今、8時20分です」
「やばいよ、やばい」
 僕はパジャマを脱ごうとして、それをじっと見ているラナちゃんに気づいた。
「あの… ちょっと後ろ向いててくれない」
「そりゃ旦那が後ろ向け、と言えば向きますけど… どうしたんです?」
「だってね… やっぱり恥ずかしいじゃない」
「ふふ… 変なの」
 ラナちゃん、笑ってる。
「夏の間なんか、ずっとパンツ一枚でキーボードガチャガチャやってたくせに」
 だ、だってねラナちゃん。それはラナちゃんが本当にパソコンだった頃の話で、という事は僕、ずっとラナちゃんにあられもない姿を見せてたって訳で…
 僕は顔まで真っ赤になった。
 ラナちゃんはそんな僕の繊細な気持ちにちっとも気づいてないみたいだ。
「旦那、おでかけですか」
「う、うん。これこれ」
 僕はちゃぶ台の上にほっぽりだしてあったチラシをラナちゃんに渡した。
「ふーん… 秋葉原のお店ですね」
「ダーーッ、ラナちゃんこっち見ないでって」
「お買物ですか」
「うん、ほら、そこのハードディスク。ムチャ安だろ。SCSIのやつ」
「わー、私に買ってくれるんですか!」
「限定5台限りって書いてあるだろ。今日は日曜だし、開店前に並んどかないと…」
「でも… 旦那」
 ラナちゃんは困った顔をする。
「私、もうハードディスク2つも持ってますよ」
「でももう一杯なんだよ。そういうのは早いめに増設しといた方が楽だからね」
「たしかにハードディスクはドライブCが85%、ドライブDが92%、ぎっしり、ぎゅうぎゅう、めいっぱい詰まってますけど…」
「だろ?」
 ラナちゃんは横目で僕を見る。
「そのうちのドライブCの50%が、その、女の子が口にできないようなプログラムばかり、ぎっしり、ぎゅうぎゅう、めいっぱいなんですよね」
 ギクッ。
「でもってドライブDのほうはまるっきり、全部、ことごとく、100%、女の子が口にできないようなデータが、ぎっしり、ぎゅうぎゅう、めいっぱい…」
 ギクギクッ。
「あ、あのラナちゃん…」
 ラナちゃんはチラッ、と僕を見る。
「…消しちゃったほうが、いいんじゃないですか」
「ひ、ひえ〜っ!! そ、それだけは…」
「だって増設しても、せっかくのSCSIハードディスクがこれまた、ぎっしり、ぎゅうぎゅう、めいっぱい…」
「ひえ〜っ、ごめんなさい、許して、勘弁して〜」
「というわけで旦那」
 突然ラナちゃんはコロッと声色を変えた。
「私も買い物、連れてって下さい」
「えっ、ラナちゃんが!? でも…」
「ねえねえ」
「わー、パンツひっぱらないで」
「私も旦那と一緒に行きたいです」
「そんな事言ったって無理だよ…」
 ピクッ。
「…消しちゃいましょうか」
「行く行く、行きます!」
 人間がパソコンに脅されるとは、恐ろしい時代になったものだ。
「だけどねえ。ラナちゃん、電源がないとキツいよ」
「なんとかなりますよ、きっと」
「あんまり外出て歩くと、振動でハードディスク飛んじゃうかもだし…」
「旦那ったら心配性なんだから。だいたい飛んだって平気なデータばっかりじゃないですか」
「ブルブルブル… とんでもない」
「ねえねえ」
「でもなあ…」
「…消しましょうか」
「あーわかった分かった」
 僕は冷や汗を拭いた。
「まあ、内部電源(無停電電源装置)があるから5分や10分はもつし、アンビリカル・ケーブルさえ持っていけば、なんとかなるだろ」
「なんですか? アンビリカル・ケーブルって」
「え、何? よく聞こえなかった」
「アンビリカル・ケーブルって、何ですか?」
「…ラナちゃん本当に知らないの?」
「はい」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!」
 今度は僕の攻撃フェイズだった。
「アンビリカル・ケーブルとは、英語で、電源コードの事だよ」
「えっ、本当ですか」
「そんな事も知らないような悪い子はぁ…」
「きゃん」
 僕は部屋中に散らばった何百本のビデオコレクションの中から、一瞬の神業で目的の秘蔵テープを取り出した。
「このビデオで、一緒にお勉強だ!」
「旦那、そんな事よりお買物お買物」
「あ、そうか」
 その時、ズザザザザ… と廊下を走るスリッパの音が聞こえてきた。
「やばい」
「なんですか?」
 大家さんよりおっかない先輩だ!
「ラナちゃん。どっか隠れてて」
 と言うが早いか、
「北原〜っ!」
 先輩が部屋のドアをバーン、と開けて入ってきた。
「北原君、私は徹夜明けで眠いんだ。もう少し静かにしてくれ」
 先輩は寝不足のウサギのような目をしている。先輩は僕らの学校を優秀な成績で卒業した一流のプログラマーだ。肌身離さずはいているスリッパがその証だ。社会人になっても家には寝に来るだけだからと、未だにこうして築36年風呂なしトイレ共同のこの下宿に寝泊まりしている素晴らしい先輩だ。みんなの憧れ、伝説の男だ。
「お、おはようございます、先輩」
 僕は慌てて挨拶した。
「ん?」
 先輩はしばらく部屋を見回していたが、急におとなしくなって、
「あ、これは、これは… 北原くん。悪いことしちゃったね」
「は? いえ、こちらこそ、やかましくしてすみません」
「いやいいんだ。じゃあ、なんだ、その、静かにね。じゃ彼女によろしく」
 先輩は顔を赤らめ、出ていった。
「はあ、よろしく言っときま…」
 え、なに? 彼女によろしく?
 しまった! ラナちゃん、隠れたと思ったのに見つかっちゃったみたいだ!
「せ、先輩、誤解です!」
 僕は慌てて先輩の後ろ姿に声をかけた。
「あの子は彼女とかそういうんじゃなくて、つまり、あの、その… そう、あの子は僕の妹なんです!」
 僕はとっさに機転をきかせた。
「なに?」
 先輩は立ち止まり、そして僕のほうを振り向いた。
「じゃあなにかい、北原くん。あの子は君の妹さん、と言うんだね」
「は、はい」
「ほう」
 先輩は僕に詰め寄った。寝不足の顔のアップは怖い。
「すると北原くん。君は妹さんと一緒の布団で一緒に寝てるというんだね」
「えっ」
 僕は慌てて部屋の中を見た。
 ラナちゃんは僕の布団から顔をのぞかせていた。
「ねえ、お兄ちゃん…」
 ヒエ〜〜ッ!! ラナちゃん、妹のふりしてうまくフォローしてくれたつもりかもしれないが、これじゃちっともフォローになってないぞ! このシチュエーションでパンツ一丁の僕の立場はどーなる!
「北原くん。きみはその歳で、妹さんと一緒の布団で寝ていると…」
「いや、あの、そういうわけでは…」
「布団で寝ていると…」
「あの、その…」
「布団…」
 先輩はふらふらと部屋の中に入ってきた。
「ああ… 布団が呼んでいる」
 そしてあろうことかラナちゃんのいる布団へもそもそと入っていった!
「キャ〜ッ!」
 いかん! 先輩は寝不足で善悪のみさかいがつかなくなっている。
「だ、旦那〜っ」
「ラナちゃん!」
 僕は先輩の足をひっぱった。
「先輩、出て下さい!」
 だが先輩はびくともしない。
「あの、旦那」
「ん?」
 見るとラナちゃんが、自分の口にそっと指を当ててている。
「し〜っ」
 先輩は、スースーと寝息をたてている。
「なんか、よく眠ってるみたいです」
「そうか、先輩は寝不足で布団に吸い込まれてしまったんだ」
 僕は先輩のよく言っていた言葉を思い出した。一流のプログラマーになるには、いつでもどこでも熟睡できるようになる事だ、と。先輩はまさにその言葉を自ら実践しているのだ。やっぱり先輩はすごいや。
「先輩さんにお茶をお出しする間もなく、寝ちゃいましたね」
 それでもラナちゃんは湯気のたった湯飲みを先輩の枕元に置き、布団を整えた。
「じゃラナちゃん、買い物行こうか」
「はい、旦那」
 たしかにこんな環境の下宿に、ラナちゃん一人だけ置いていくのはかえって危険かもしれない。もちろんラナちゃんは大喜びだ。僕はそそくさと着替えをすませると、先輩と湯飲みを残したまま、ラナちゃんと外に出た。

「わー、きれいな空」
 ラナちゃんはもうさっきからはしゃぎまわっている。
「ラナちゃんラナちゃん。あんまりはしゃぐと電気食っちゃって、アキバまで行けなくなるよ」
「はーい」
 といいつつ僕の言うことなんかちっとも聞いてない。まあ無理もない。僕の家に来てからずっと部屋の中だったんだから。それを思うとちょっと気の毒になった。
「ごめんよラナちゃん」
「え、何がですか」
「だって僕がずっと家の中に閉じ込めてたから」
「そんなの旦那のせいじゃないですよ」
「許してくれる?」
「もちろん。その代わり…」
「その代わり?」
「あの…」
「ん」
「手… つないでいいですか?」
 見るとラナちゃん、赤くなってる。かわいーっ。
 僕は右手を出した。ラナちゃんがそっと僕の手を握った。
「旦那の手、あったかーい」
「そう?」
「旦那と手をつないで歩けるなんて… なんか夢みたい」
「僕もだよ」
「あ、旦那、赤くなってる」
「なに言ってるの。ラナちゃんだって」
「ふふふ…」
「ははは…」
「えしぇしぇしぇ!」
 うわっ、何だ!?
「朝っぱらからラブコメかえ?」
 なんだ、ただの通りすがりのばあちゃんだ。
「若いもんはええのお。えしぇしぇしぇ!」
 ばあちゃんは行ってしまった。ばばあのくせに『ラブコメ』という単語を使うとはずうずうしい。
「ばあちゃん、行っちゃったよ。もう安心だよラナちゃ…」
 振り向いた僕はラナちゃんの様子が変なのに驚いた。
「ラナちゃん、どうしたの」
「なんか、ふわふわして、いー気持ち〜…」
 いかん! ラナちゃんの内部電源が切れつつある。
 僕はふわふわのラナちゃんをつれて最寄りのコンビニへ駆け込んだ。
「いらっしゃいませ!」
「す、すいません。ちょっとコンセント貸してほしいんですが…」
「何にいたしましょう」
「あ、あの… ちょっと電気分けてほしいんだけど…」
「何にいたしましょう」
「あの、電気を…」
「何にいたしましょう」
「…これとこれ下さい」
 くそう。ただでは電気はやれんという事か。缶コーヒーとサンドイッチ。いらぬ出費をしてしまった。
「ふあ〜」
 新鮮な電気をもらって、ラナちゃんは大きくのびをした。
「なんか、もりもり元気わいてきました」
 店員も、雑誌を立ち読みしてる客も変な目でこっちを見てる。
「…ねえ、ラナちゃん。今日は家に帰ろうか」
「えー、なんで」
「この調子だとアキバつくまで大変だよ」
「うん… でも行きたい。だって、旦那と始めてのデートだもの」
 ラナちゃんはすがりつくような目で僕を見る。
「…駄目ですか」
 そ、そんな目をされちゃ、ことわれるわけないじゃないラナちゃん。
「わ、分かったよラナちゃん。その代わり…」
「その代わり?」
「ラナちゃんには省電力モードに移行してもらうよ」
「省電力モード!?」

「どう、気分は」
「  …わるくないですぅ〜」
「じゃ、その調子でね。できるだけな〜んにも考えちゃ駄目だよ。ハードディスクにアクセスしちゃうから」
「  …な〜んにも、かんがえないようにしますぅ〜」
「あ、ラナちゃんラナちゃん」
「  …なんですかぁ〜?」
「危ないよ。赤信号」
「  …はいぃ〜」
 なんだかたよりないラナちゃんになっちゃったけど、これでなんとかアキバまで行けるだろう。
「…電車、間に合うかなあ」
「  …えーとぉ〜、のぼりでんしゃのきゅうこうがぁ〜…」
 カリカリカリ。
「ラナちゃんラナちゃん、時刻表検索のプログラムなんか呼び出しちゃだめだって」
「  …あぁ、そうでしたぁ〜。ぽりぽりぃ〜」
 駄目だこりゃ。

 それでもなんとか僕らはアキバにたどりついた。もっとも、ラナちゃんの充電を繰り返してたから着いた頃にはお昼すぎになっていたけど。
 僕は目的の店の前で、ぼうぜんと立ち尽くしていた。当然ながら、特売のSCSIハードディスクはとっくに売り切れていた。
「  …だ〜んなぁ、そ〜んな、がっかりしないでぇ〜」
「う、うん。そうだね」
「  …ひょっとしてぇ、わたしのせいかしらあぁ〜」
 カリカリカリ。
「あああラナちゃん。ラナちゃんは心配してくれなくていいんだよ。ちっともラナちゃんのせいなんかじゃないんだから」
「  …そうですかあぁ〜」
「それよりまた電気もらおうね」
「  …はいぃ」
 でも、アキバについてからラナちゃんの電源を心配しなくてもよくなった。どこの店に行っても親切に電気を貸してくれたから。
「兄ちゃん、このパソコン、自作かい」
 店のおじさんはラナちゃんを見て感心してる。
「まあ、そんなもんです」
「よくできてるねえ」
「わあ、ありがとうございます」
 ラナちゃんもにっこりだ。
「旦那、みんないい人たちですね」
「そうだね」
 ここの町の人はいっけん無愛想で、せかせかと忙しくて、とっつきにくい感じがするけど、でもパソコンの事になるとみんなとっても親切にしてくれる。
「この町の人はみんなパソコンが好きだからね」
「私にぴったりの町ですね」
「でもさあ… なんでみんなラナちゃんの事パソコンって分かるんだろ」
「そりゃだって」
 ラナちゃんは得意気におでこのCPUクーラーを指さす。
「これですもん」
「そんなもんかなあ」
「そんなもんですよ」
 どうもラナちゃんにさりげなく言われると、なんとなく納得してしまうなあ。
「そうだ、せっかくアキバまで来たんだから、ラナちゃんのアンビリカル・ケーブルの延長コード買って帰ろうね」
「うん。ありがとう旦那」
 だが意外な事に、すぐに見つかると思った延長コードは、何軒も店を回っても見つからなかった。
「見つからないね…」
「旦那。ひょっとして私たち、見当違いな店ばかり行ってるんじゃ…」
「そんな事はない。僕のいきつけの店ばかりだよ」
「それに旦那、なんか自分のものばかり買ってません?」
「そ、そうかな。ついでだしと思ってさ… そんな事より、さ、次はこの店だ」
「…ここも延長コードはなさそうな」
「ラナちゃん、僕を信じて」
 そうして僕とラナちゃんがソ○マップ13号店のエレベータに乗ろうとすると、入れ違いに出てきた二人連れが声をかけてきた。
「あら、北原くん」
「よお」
 げ、小林と法子だ。小林は今買ってきたらしい1/6スケールのガレキを大事そうに抱え、法子のほうはヤ○ギワアニメ館の黄色い袋をぶらさげてる。まったく我ながらこんな奴らが友達と思うとなさけない。
「北原くん、またKブ○クス行ってきたのね」
「で、石○電気二号館でCDこーてきたんかいな。進歩ないやっちゃな」
「な、なんでわかる」
「そんなの荷物見たらばればれよ」
「そんな事よりやな…」
「そう、そんな事より…」
 小林と法子はラナちゃんを指さして叫んだ。
「なんでお前が女の子と手つないでるんや!」
「そ、それは…」
「しかも私以外の」
「ちょっと待て法子! 僕がいつお前と手をつないだよ」
「あの… 自己紹介が遅れちゃいました」
 ラナちゃんがちょこんとお辞儀した。
「私、旦那のパソコンのラナです。以後よろしくお見知りおきを」
「ラナちゃん? ああ、そうゆーたら北原、なんか自分のパソコンにそんな名前つけてたよーな…」
「わー、覚えててくれました?」
「本当だ、ちゃんとCPUクーラーついてるし」
「はい。そんなわけでよろしくお願いします」
「小林や、こちらこそ、よろしゅう」
「法子よ、よろしく」
「おいおい。簡単に納得するなよ」
 僕は合点がいかない。
「ラナちゃんはペンティアム少女なんだよ。不自然とか、思わない?」
「北原君が女の子と手つないでるほうがよっぽど不自然よ」
「だって理屈で考えておかしくないか」
「そら考えすぎや」
「…お前ら、なぜテレビが映るか、知ってるか」
「はあ」
「なんやそれ」
「まあまあ、そんな事より…」
 ラナちゃんが割って入る。
「お近づきになったしるしに、お茶でもいかがですか」

 僕らはアキバのメインストリートの歩行天の真ん中に座って、ありがたくお茶をいただいた。
「粗茶ですが」
「あ、どうも」
 みんなでズズ… とお茶を飲む。
「おいしい」
「ラナちゃん、茶道の天才やな」
「恐縮です」
「…で、二人してアンビリカル・ケーブルの延長コードを探してると」
「はい」
「そういう事」
「よっしゃ、まかせとき」
 自信たっぷりに小林が言う。
「延長コード売ってる店くらい、朝飯前や」

 すでに日は傾いている。
「…なんか、疲れちゃったね」
「ええ…」
「ほんまや」
「アキバをくまなく探して延長コードひとつ見つからないなんて…」
「あの… 私思うんですけど」
 おずおずとラナちゃんがきりだす。
「なんかさっきから、ずーっと、オタク系のお店ばかり尋ね歩いてるような気がするんですけど…」
「そうかなあ」
「気のせいでしょ」
「あの、私、一軒こころあたりがあるんですけど」
「え、ラナちゃん、お店知ってるの?」
「すぐ近くです。行ってみますか」
「おう、行く行く」
 そこは裏通りの小さな店だった。箱積みのパソコンが並んでいる。
「ここは…」
 僕にはなんだか見覚えがあった。
「思い出しました?」
「あ〜っ」
「あ〜っ」
 僕と小林は顔を見合わせた。そこへ僕らの気配を察して店のお兄さんがやってきた。
「いらっしゃい… げっ」
 お兄さんは死に神でも見たような顔をした。
「またあんたたち!?」
 お兄さんは僕らの事を覚えてくれていた。覚えてるはずだ。

 僕がありったけの現金を握りしめ、小林を誘って、いよいよ自分のパソコンを買おうと決戦にのぞんでこの町に来た日の事だ。前日にめぼしをつけていた格安のパソコンを買いに行く通り道、ある店の店頭にとんでもない商品がおいてあった。僕が欲しくて欲しくてたまらなくて、どうしても予算が足りずにあきらめていた機種。それが目の前で叩き売りされている! だが破格の安値とはいえ、それは僕の持っている現金よりも高かった。まだ銀行には2万残っている。だがそれを使えば今月のバイト料がもらえるまで、僕は水を飲んで生活しなくてはならない。
 僕は泣く泣く、その店の前を通り過ぎた。そして5分後、また同じ店の前を通り過ぎた。そしてまた5分後、その店の前を通り過ぎた。
「いい加減、あきらめたらどうや」
「でもでも」
「そんなら思い切って買ったらどうや」
「でもでも」
「まかしとき。俺がついてる」
 僕は速攻で銀行に行き、それがまだ売れ残っていることを願ってまたまたこの店に来た。最後の一台がまだ残っていた。
「いらっしゃい」
 若い店員さんが愛想笑いする。
「いいでしょ。これ」
「うんうん」
「すごい値段でしょ」
「うんうん」
「もう、買うしかないですよね」
「うんうん。だからまけて」
 それからの30分。筆舌に尽くしがたい攻防があった。まさに竜虎相撃つ死闘であった。僕はこの時ほど、小林の関西弁をたのもしく思ったことはない。
 そうして憧れのパソコンは僕のものになった。それがラナちゃんだ。

「ああ、あの時の」
 店のお兄さんは、なつかしそうにラナちゃんを見た。
「はい。お久しぶりです」
「しばらく見ないうちに、まあ大きくなって」
「はい、おかげさまで」
「そうかそうか。随分かわいがってもらってるみたいじゃないか」
 お兄さんはラナちゃんの頭をクリクリと撫でた。
 僕はここで延長コードを1ダース買った。お兄さんは、特別だよ、と言って半額にまけてくれた。
「お客さん。これからもこの子、可愛がってやってね」
「もちろん」
「じゃあね、また来ます」
「また来るの? …どうぞどうぞ」
 お兄さんは複雑な表情だった。

 充電を繰り返してようやく家に戻った頃にはもうすっかり夜だった。
「なんか疲れちゃったけど、楽しかったね」
「  …はいぃ」
「あ、ごめんごめん。電源コードつながなくちゃね」
「  …あんびりかる・けーぶるぅ」
「そうそう」
 それ、プチッとな。
「そうだ。せっかく買ったんだから延長コードも出しとこうね」
「…旦那」
「ん」
 振り向くと、もうラナちゃんは通常モードに戻っていた。
「今日はいろいろありがとう」
「え、なんのこと」
「だって、私のためにこんなに延長コード買ってくれたし」
「いいんだよ、そんなの」
「それに… 私のせいでハードディスク買えなくて、ごめんなさい」
「いいのいいの」
 僕は自分でも不思議だったけど、ハードディスクが買えなかった事がちっとも残念じゃなかった。いや、ほんのちょっとだけ残念といえば残念だけど。でもラナちゃんと一緒にアキバに行った事のほうがなんか嬉しくて… なんか、よく説明できない気持ちだった。
「でも、みんないい人ばかりでしたね」
「そうだね。きっとラナちゃんが可愛いから、みんな優しくしてくれるんだよ」
「やだ、旦那ったら」
 ラナちゃんは照れかくしに僕の背中を叩いた。
「でもね、やっぱり旦那が一番やさしい」
「そうかな」
 僕は自分がやさしい人間だなんて思った事なかったけど。
「僕、やさしい?」
「とっても」
 ラナちゃんは僕の背中にだきついた。
「旦那、だ〜いすき」
 ズザザザザ…
「あ、来た来た」
「北原あ〜っ」
 先輩がやって来て、入ってくるなりズン、と湯飲みを差し出した。
「妹さん。も一杯、お茶をくれんか。私はこんなにうまいお茶を飲んだことがない!」
「はい。よろこんで」
 ラナちゃんはいそいそと、お茶をいれ始めた。
「はい、旦那もどうぞ」
「なに、旦那!? 妹さんではないのか」
「いや、あのそれは…」
「はい。私、ほんとは旦那のパソコンのラナです」
「なんだ。そうならそうと言えばいいのに」
 散らかりまくった部屋の散らかりまくったちゃぶ台で、先輩と僕とラナちゃんの、夜更けのお茶会。奇妙だった。
 せっかくラナちゃんといいムードだったのにな。でもその一方で、僕はこのまま朝まで寝ないでいたい気持ちだった。だって眠って朝起きたらラナちゃんは元のパソコンに戻っていて、全部夢だった、なんてのは嫌だから。
 たった一日の出来事なのに、もう僕はラナちゃんと何年も暮らしてるみたいな気持ちだった。これからもずっと一緒にいたかった。いられればいいな。
「だ〜んな」
 気がつくとラナちゃんは僕に肩を寄せていた。
「ラナちゃん」
「ええい、人前でいちゃつきおって。そんな君らは記念写真の刑だ」
 先輩はポケットからデジカメを取り出した。
「あ、いいなあ先輩」
「買ったんですか」
「いいだろ。えいえい」
 パシャパシャ。
「先輩… 本当はカメラ、見せびらかしたかったんでしょ」
「ええい、言うなあ」
 パシャパシャ。
 夜はふけていった――

 (続く)


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